老化遅らせ病気を予防 鍵握る抗酸化力、高めるコツは
老化や病気の一因として知られる「酸化」。体内で発生する活性酸素が引き起こす、いわば体のサビつきだ。若々しさや健康を保つためには、抗酸化力を高める必要がある。酸化の仕組みと対処法を追った。
金属は空気中の酸素に触れていると、やがて赤茶色にサビてしまう。この酸化という現象が、実は体の中でも起こっている。
呼吸によって取り込んだ酸素は、食事でとった栄養素を燃やし、エネルギーを作り出すために使われる。この過程で、取り込んだ酸素の一部が活性酸素という強い酸化作用のある化合物に変わるのだ。
活性酸素は体内に侵入した細菌やウイルスなどの攻撃から体を守る働きをしている。しかし酸化力が非常に強いため、増えすぎると正常な細胞まで攻撃してしまう。つまり活性酸素には功罪の二面性があるわけだ。
一方、体内には活性酸素を無害化する仕組みも備わっている。体が酵素など多様な抗酸化物質を作り出しているからだ。体内の抗酸化力によって、若い頃は活性酸素の量が一定に保たれている。ところが中高年になるにつれ、抗酸化物質が減っていく。「活性酸素過多になって、抗酸化力と活性酸素のバランスが崩れた状態を『酸化ストレス』と呼ぶ」。こう解説するのは、岐阜大学抗酸化研究部門特任教授の犬房春彦氏だ。
酸化ストレスが続くと、全身の細胞が傷つき、シミやシワが増える、視力が落ちる、骨がもろくなるなど、体のあちこちで老化が進むことがわかっている。
老化だけではない。犬房氏によると「150種類以上もの病気の引き金になると言われている」。動脈硬化、糖尿病、認知症、心臓病、がんなど深刻な病気とも深い関係がある。「病気になることで酸化ストレスが増幅し、さらに病気が進行する悪循環に陥る」と警告する。これを抑えることは、多くの病気の予防・治療につながるという。
では加齢で衰えた抗酸化力を高めるには何をすべきか。愛知学院大学心身科学部特任教授の大沢俊彦氏は「ビタミン、カロテノイド、ポリフェノールといった抗酸化成分が豊富に含まれる食品を積極的にとってほしい」と助言する。
緑黄色野菜、根菜、果物、海藻、キノコ、豆、ハーブ類などを偏りなく食べるとよいだろう。「ゴマや玄米、緑茶などもおすすめ」(大沢氏)という。
体内の抗酸化物質をサポートし、活性酸素を減らすなど「食品の抗酸化成分には、それぞれ別の役割と働きがある。だから様々なものを日々バランスよく摂取することが大切」と大沢氏は指摘する。。
ところで酸化ストレスを促進するのは加齢に限らない。活性酸素を必要以上に増やす生活習慣も問題だ。避けるべきはたばこ、過度の飲酒、日焼け、強いストレス、食べ過ぎ、激しい運動などだ。
たばこは有害物質を吸い込むため「それを攻撃する活性酸素を大量に発生させる。同時に抗酸化成分のビタミンCも壊してしまう」(大沢氏)。
肥満の人は食べ過ぎる傾向があり、そのため血糖値が高いことが多い。「血糖値が高いと取り込んだ酸素をうまく使えない。それで活性酸素が増える」と指摘するのは犬房氏。食べ過ぎ防止と適度な糖質制限をすすめる。
肥満の改善には運動も有効だが、呼吸量が急増する激しい運動はNGだ。取り込む酸素が多くなり過ぎると、結果として活性酸素が増える。有酸素運動は軽めのものにし、「ランニングではなく、大股で早歩きのウオーキングを」(犬房氏)。
食事や生活習慣に気を配る抗酸化生活を今すぐ始めてはいかがだろうか。
(ライター 松田亜希子)
[NIKKEIプラス1 2020年7月11日付]
参考:(2020/7/21掲載) https://www.nikkei.com/nstyle-article/DGXKZO61336470Z00C20A7W10600/