NK細胞の大きな可能性
日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
私たちの体には毎日3,000個以上のがん細胞が発生すると考えられている。
それにも関わらず人間がすぐがんにならない理由は人体には免疫という仕組みが備わっているからだ。免疫とは文字通りに「疫(えき)から免れる(まぬがれる)」、すなわち病気から回避できることを意味する。免疫と素晴らしいシステムがあるお陰で、人間は生存してくることができた。免疫のもう一つの素晴らしい点は、免疫は一度侵入した敵を記憶していて、次回からは同じ敵が侵入してきたらすぐ攻撃できることだ。たとえば、一度「はしか」などの病気にかかったら、一生その病気にはかからなくなる。免疫のこのような性質を活用して作られるのがワクチンである。ワクチンは病原菌を弱くして、一度軽くその病気にかからせることによって免疫を獲得させ、一生その病気にはかからなくする。このように免疫とは、体内に侵入した細菌やウイルスなどを攻撃して、異物を排除することで、自分の体を外敵から守る。
免疫は本来外から入ってきた細菌やウイルスに対して自分を守るためにあるが、間違って自分の細胞を攻撃する場合もある。このようなことを自己免疫疾患という。アレルギーなどは免疫機能が過剰になって起こる自己免疫疾患の一つである。
それでは、免疫を担当する細胞には、どのような細胞があるだろうか。ここでは簡略化して、説明させていただく。
免疫細胞の代表的なものとしては、細菌やウイルスが体内に侵入すると最初に出動して、細菌を食べてしまうマクロファージがある。それから常に体の中をパトロールしていて、外敵や異物を見つけると、他の指示なしに、単独で外敵や細菌を攻撃できるNK(Natural Killer)細胞がある。それに、攻撃用武器である抗体を生産するB細胞と、外敵との戦争の司令塔の役割をするヘルパーT細胞と高い殺傷能力を持ったキラーT細胞などがある。
免疫が働く仕組みはとても複雑で、まだ完全に解明されていない。免疫が働く流れをざっくり説明すると、細菌などが体に侵入すると、まずマクロファージとNK細胞が敵と戦う。それと同時にNK細胞はサイトカインのような細胞刺激物質を放ち、B細胞やT細胞を活性化させ、戦闘に加担させる。ところががん細胞はとてもずるくて、自分を免疫細胞の攻撃から守るため、免疫細胞の活動を抑制する物質を出したり、身分をごまかしたり、逃避したりしていることが研究で明らかになっている。
一方、免疫治療はがんの治療方法として期待が集まっている。がんの標準治療には外科療法、化学療法、放射線療法がある。しかし、標準治療にはいろいろな限界があることも段々分かってきている。
既存の標準治療では、がんが再発した場合や転移した場合には手に負えなくなる。現在の画像技術ではがんがあるサイズにならないと見つからない。その結果、数カ月前にはがんではなかったのに、いきなりがんと宣告されることもよくある。現在の治療法は予防や再発には無力である。それに抗がん剤などは副作用が激しく、患者にとって、精神的にも肉体的にもとても負担になる。そればかりか長期服用すると、薬剤耐性ができて、クスリがきかなくなる。さらに、標準治療は本来体に備わっている免疫機能を弱めてしまう。このように標準治療にいろいろな限界があるので免疫治療に期待が集つまっている。ところが、免疫の新しい仕組みが解明され、免疫チェックポイント阻害剤というクスリが米国、日本などで承認を受けることによって、再び免疫治療の新しい可能性に世界が沸いている。
免疫細胞は敵との戦闘が終わると、攻撃を中止しないといけない。攻撃を中止するブレーキの役割を果たすものがある。最近の研究で、免疫細胞には活性化させるシグナルだけでなく、免疫細胞の活動を抑制するシグナルがあって、がんは免疫細胞の活動を抑制していたことが明らかになった。
今回承認を受けたクスリは、その抑制を解除することで本来の免疫機能を回復させ、効果を発揮するクスリである。
今まで免疫治療があっても、臨床データが不足し、標準治療としての地位は確保していなかった。しかし、免疫チェックポイント阻害剤が登場することによって再び免疫治療の可能性に全世界が注目している。今まで免疫治療は活性が弱くなった免疫細胞を体外に取り出して活性を高めた後、体内に戻す治療が一般的であった。それもどちらかというと、攻撃力が高いといわれたT細胞が中心であった。ところが、がんに対する攻撃にはNK細胞が主役で、NK細胞が一番効果的であるという研究があって話題になっている。その会社は韓国のコスダックに上場している(株)ATGENである。NK細胞は数億年の人類歴史の中で進化した細胞で、他の指示がなくても、自分で正常細胞とがん細胞を区別して攻撃できる細胞である。ただ、今までは、NK細胞だけを分離して培養する技術がとても難しく、殺傷能力もそれほど大きくなかったので、それほど注目をうけなかった。しかし、同社では、細胞培養に有利なえさを見つけ、細胞を数千倍から数万倍に培養することに成功した。それだけでなく、今までより10倍ほど殺傷能力を高めることにも成功した。増殖を増やすために、培地として高価なものを使う場合が多い中で、同社では、廉価な栄養素をみつけ、価格メリットも実現している。同社の朴相佑(バク・サンウ)社長は、日本と韓国、米国で臨床試験を同時に進め、免疫治療剤を開発したいと言う抱負を明らかにした。同社で開発したNK細胞の場合には今まであまり効果のなかった固形がんにも効果があるし、免疫抑制作用を解除できる特徴も持っているという。
免疫チェックポイント阻害剤が大きな話題になったが、いざ適用してみたら適用対象が20%前後に過ぎない、副作用があるなどの問題も指摘されている。
直接的で、一番仕組みの簡単なNK細胞だけに、その弱点を克服できたとしたら最も効果的な治療剤になる可能性は高い。
同社では、がんの発症と密接な関係があるといわれているNK細胞の活性値を計るキットも開発して、全世界に発売している。
(2017年03月27日 NET-IB NEWS掲載)
http://www.data-max.co.jp/190328_ry01/
(2017年03月27日 NET-IB NEWS)