あなたの「副腎」疲れてない? 体調不良の原因に ―朝起きられない・思考力が低下…―
副腎は直径5センチメートル前後の大きさで、重さは5グラム程度。2つあるので病気などで片方を摘出しても基本的には問題ない。肝臓や心臓など他の臓器に比べると目立たないが、その働きは重要だ。
副腎は腎臓の機能を助けるのではなく、主に5種類のホルモンを製造・分泌している。体内では下垂体や甲状腺、肝臓などもホルモンを分泌しているが、副腎は日常生活を送るのに欠かせないホルモンを出す。
■顔のむくみ要注意
副腎のうち周辺の皮質という部分から分泌されるのはステロイド(副腎皮質)ホルモン。その代表であるコルチゾールはストレスから自分の体を守るのに必須だ。ストレスを受けた時に分泌して血液中に放出し、体中に行き渡る。
コルチゾールの過剰分泌でなる副腎の病気にクッシング症候群がある。副腎や脳下垂体の腫瘍が原因だ。人によって症状が違い、顔のむくみや紅潮、ニキビ、腹部の肥満などの症状がみられる。高血圧や糖尿病、骨粗しょう症などになる恐れがある。
皮質から出る別のホルモンであるアルドステロンの過剰で起こる病気もある。原発性アルドステロン症で、副腎に腫瘍ができて高血圧などが起きる。高血圧症の患者の10%程度がアルドステロン症といわれている。
副腎中心部の髄質から出るのはカテコールアミンだ。アドレナリンやノルアドレナリンがこれに分類される。この過剰分泌が褐色細胞腫を引き起こす。髄質に腫瘍ができて起きる病気で、高血圧や血糖の上昇、頭痛、便秘などが起きることがある。
ほかにも、コルチゾールの分泌が少なくなり発症するアジソン病などがある。東京都内にある大学病院の医師は「生活習慣病に副腎の病気が隠れていることもある。気になるのであれば診察を受けたほうがよい」と指摘する。
さまざまな病気になる恐れのある副腎だが、最近は一部のクリニックなどが「副腎自体が疲労する」という考え方を取り入れ始めた。米国の専門家が唱えた概念で、精神的ストレスの積み重ねによる慢性的な疲労感や体調不良、性欲の減退、朝に起きられないなどの症状が当てはまるという。
順天堂大学の白澤卓二教授は「研究途上の領域だが、診断基準ができれば一気に該当者が出てくる可能性がある」と指摘する。ストレスを受けた副腎がその対処のためコルチゾールを分泌し続けると副腎が疲弊してしまい、いずれコルチゾールを十分分泌できなくなるという考え方だ。
■十分な睡眠をコルチゾールが分泌できないと、さまざまなストレスと闘えなくなる。これらの症状があっても普通は副腎の機能が低下していると気づかない。「うつ病や更年期障害を疑って心療内科などを訪れることが多い」と銀座上符メディカルクリニック(東京・中央)の上符正志院長は話す。「心療内科などで解決できなければ、副腎の疲労を疑ってもよい」
副腎の疲労は採血などで判定する。血液中のコルチゾール濃度を朝と夕方に測り、一定の値を下回っているか調べる。この値とともに、全身の疲れがたまっているなどの症状が当てはまれば、副腎が疲労している可能性がある。
症状の緩和には「まず原因を取り除くのが大事だ」(白澤教授)。全身の疲労感が抜けないのであれば、不規則な生活を見直し、十分な休息や睡眠をとる。特に疲労感が強い時間帯に休もう。また就寝前にスマートフォン(スマホ)を操作すると、画面からの青い光(ブルーライト)が睡眠を促すホルモンの分泌を妨げて睡眠の質を下げかねないので、なるべく避けたい。
副腎をいたわるために食生活を見直すことも大切だ。副腎が疲れると不足しがちなビタミンCなどを多めに摂取するよう気を配ろう。上符院長は「一回の食事の中に炭水化物、脂肪、たんぱく質を取り入れ、バランスをとるのが理想だ」と話し、炭水化物は玄米などをすすめる。カルシウム、ミネラルなどの栄養素も症状の改善によい。
一度、生活習慣を見直してみてもよさそうだ。
(山本優)
≪ホームページ≫
◆副腎のホルモン分泌について詳しく知るには
厚生労働省の「副腎ホルモン産生異常に関する調査研究」
(http://www.pediatric-world.com/asahikawa/fukujin/index.html)
◆副腎の機能低下について説明
「若くて疲れ知らずの人は副腎が元気!」(上符正志著、マガジンハウス)
https://style.nikkei.com/article/DGXDZO66578430Y4A200C1MZ4001
(日本経済新聞朝刊2014年2月9日)