「国民病」の花粉症、症状を和らげるためにできること コロナ禍での懸念点と対策を医師が解説
今年も花粉症の季節がやってきました
スギ花粉は2月上旬から飛散し、3月にピークを迎えます。スギ花粉の飛散がひと段落しても、その後ヒノキ花粉が飛ぶようになります。
幸いなことに、例年比でいえば花粉の量は並~少ない傾向ですが、昨シーズンが少なかったため、昨シーズンとの比較だと多くなる地域が多いと予測されています。
ですから、昨シーズンよりは症状が強く出る可能性が高い、と考えられます。ぜひしっかりと対策しましょう。
花粉症の治療はいつから始めればいいのか
(どのような薬で治療するかにもよりますが)毎年花粉症でお困りの方であれば、できれば、花粉飛散予測開始日までには治療を開始することをお勧めします。自分の地域の花粉飛散予測開始日をチェックしておきましょう。(一部の地域の方は記事公開の時点で花粉飛散予想開始日が過ぎています。申し訳ありません。)
飛散予測開始日に間に合わなくても、花粉飛散量が増えて症状が出るよりも前に、あるいは症状が出てすぐに開始するといいですね。
このように症状が出る前から治療を開始する方法を「初期療法」といいます。初期療法では、抗ヒスタミン薬や鼻噴霧ステロイドなどが使われます。
初期療法によって、下の図のように症状が出ている期間も短くなり、症状自体も軽くなります。
初期療法がなぜ効果的なのでしょうか??
簡単に言えば、薬によって炎症を抑えるよりも炎症が起こらないように先に薬で抑え込んでおくほうが効果が高いから、ですね。
スギ花粉症はまさに国民病
スギ花粉症は多くの年代でも高い有病率で、10代から50代では45~50%となっており、まさに国民病といえるでしょう。全体でも42.5%の有病率とされています。(※1)
また、働き盛りの人に患者さんが多く、労働生産性が低下するということが知られています(※2)。きちんと治療をすることで勉強や仕事の能率が上がる、と考えられます。
自分はスギ花粉症なのか?見分け方は?
そもそも、スギ花粉症かどうか、ということは結構自分でもわかるという方も多いかもしれません。
たとえば、「スギ花粉飛散のニュースが出てきたら鼻水が出て目がかゆくなる」ということであれば、それなりにスギ花粉症の可能性が高いと考えていいと思います。
もちろん、医師による診断であればかなり確実です。医師の場合は患者さんの症状以外に、たとえば、結膜の充血や鼻の粘膜の腫れなどの客観所見を取ることができます。さらに、必要に応じてアレルギーの抗原を調べる検査が行われます。一番広く行われているのは血液検査(抗原特異的IgE検査)ですが、皮膚を使った検査などが行われる場合もあります。
また、先日ご紹介した本態性鼻炎(いわゆる ''寒暖差アレルギー'')の方も花粉症と区別しにくいときがあります。
これらの結果から総合的にスギ花粉症かどうか、を判断します。
さらに重症度についても評価して、治療方針を決定することになります。鼻アレルギーガイドラインでは、下記のように軽症~最重症まで定めています(※1)。
花粉症の5つの治療とは??
鼻アレルギーガイドラインにおいて、治療は5つに分かれています。①患者さんとのコミュニケーション、②抗原回避、③薬物療法、④手術、⑤アレルゲン免疫療法、です。順番に解説していきます。
①患者さんとのコミュニケーション
簡単に言うと「患者さんに花粉症という病気について理解してもらい、医師と患者さんが協力して治療していくことが大事」ということです。
いくつか理由がありますが、花粉症においては抗原(アレルゲン)を避けたりするなど生活上の注意も重要なので、患者さんが病気を理解しておくことが大事、ということがあります。
また、花粉症では患者さんが辛い症状をなくすために治療するわけです。治療の目的は、例えば血液検査の数字のような目標が設定されているわけではないので、患者さんが病気による症状をどう感じているか、ということが非常に大事だからよくコミュニケーションする、ということもありますね。
ですからこういった記事を読んで花粉症という病気についてよく理解していただければいいかと思います。
②抗原回避
抗原を避けるということはとても大事なことです。
たとえば、花粉症について鼻アレルギー診療ガイドラインに記載されていることは下図のようになっています。
患者さんとお話ししていて、あまり知られていないと感じる点について少し説明します。
けばだったコートなどは花粉が付きやすいので、花粉症の症状が強い方は控えた方が良いと思います。あるいは、家に帰ってきたときには花粉をよく払ってから部屋に入るということですね。上着を玄関で管理するのも良い方法です。これによって花粉の部屋への持ち込みをかなり防ぐことができます。また、ふとんや洗濯物は外干ししてしまうと、そこに花粉が付着するので花粉シーズンは部屋干しがいいと思います。めがねもいわゆる「花粉症用」であればより効果が高いと考えられます。
のどの症状対策としてのうがいもいいですし、個人的にはセルフケアとして「鼻うがい」も勧めています。これは市販の鼻洗浄器を用いて行うものです。食塩などを含む粉を溶かすことで痛みを伴わずに洗浄することが可能です。また、ワセリンなどを鼻に塗るのも有効です。ただし、不潔にならないように、綿棒などで入口だけに塗るようにしましょう。それでも鼻の奥のほうに自然に広がっていきます。
なお、花粉症ではありませんが、ダニの抗原回避については以前の記事もご覧いただくと参考になると思います。
③薬物療法 ―最新の薬物療法も―
薬物療法については鼻アレルギーガイドラインで下記のようになっています。
なかなかわかりづらいと思いますが、ポイントは中等症以上であれば鼻噴霧ステロイドと第二世代抗ヒスタミン薬を含んだ併用治療が勧められていることですね。
抗ヒスタミン薬は本邦で最もよく用いられるアレルギー性鼻炎治療薬です(※3)。特に最近のものは以前と異なって眠気や口の渇きなどの副作用も減っています。また、最近では貼り薬の抗ヒスタミン薬もあり、選択肢が広がっています。
一方で、鼻噴霧ステロイドも非常に効果が高い薬です。欧州の研究では生活の質や鼻症状の改善について抗ヒスタミン薬よりも効果が高いという研究結果もあるぐらいです(※4)。ステロイドと聞いて不安な方もいるかもしれませんが、血中にはあまり吸収されないため、鼻に長く残ることで効果を発揮しつつ、全身に吸収されず副作用が少ないということなので、過剰に不安に感じる必要はないでしょう。最近の研究で鼻に噴霧することで、眼にもある程度効果があることがわかっています(※4)。
抗ロイコトリエン薬やプロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬などは鼻閉の改善効果が高いことが知られています。
また、最新の薬物治療について少しご紹介します。昨シーズンから使用できるようになった新しい薬剤でオマリズマブという薬があります。この薬は気管支喘息や慢性蕁麻疹の治療薬として広く用いられてきましたが、スギ花粉などの季節性花粉症に対しての保険適用 を取得しました。オマリズマブは高い効果が期待できますが、やや高価な薬であることと、前のシーズン、今のシーズンにしっかりとした治療を受けているのに重症であることなどいくつかの条件が必要となるために適応となる患者さんは限られています。通常の治療を受けているのにうまくいかないという患者さんは一度耳鼻咽喉科医院で相談してみてはどうでしょうか。
④手術
もちろん手術が行われることもあります。ただし、花粉症シーズンが始まってから症状を軽くするために手術が行われる、ということは原則的にありません。
最も負担の少ない手術はレーザーなどを用いた鼻粘膜変性手術でしょう。これは花粉シーズン前に行われます。入院も不要で、クリニックなどで行われることも多い手術です。一時的に鼻粘膜が腫脹して症状が悪化しますが、その後は症状が軽くなる、というのが典型的な経過です。
一方で鼻中隔や下鼻甲介といった鼻の中の構造そのものに問題がある場合、この構造そのものを改善する手術が行われます。たとえば、左右の鼻を仕切りである「鼻中隔」が曲がりが高度であるために鼻がつまる、という人の場合は、鼻中隔矯正術が行われます。こういう場合はレーザーで手術しようとしても(曲がった鼻中隔が邪魔で)結局十分に処置できないことも多いのです。
⑤アレルゲン免疫療法
上に書いたような治療はいずれもアレルギーの体質を直す根本的な治療ではありません。たとえ手術であっても、それは症状を抑えるための治療(「対症療法」といいます)です。
一方で、スギならスギのエキスを皮下注射したり(皮下免疫療法)、舌の下に置いたりする(舌下免疫療法)ことでそのアレルゲンに対するアレルギーを改善するといったアレルゲン免疫療法は、根本的な治療であると言えます。
特に小児や比較的若年の方など、その後に長年スギ花粉症で苦しむ可能性を考えると非常に良い治療です。
ただし、花粉シーズン中は開始できません。ですから、花粉シーズンが終了したら始める、ということになります。今年のシーズンが終了後に開始すれば来シーズンの効果が期待できます。おおよそ8割の方に効果があるといわれます。おおよそ3~5年治療を継続することが推奨されています。
この治療では、長期間継続することで花粉症の体質自体が治るということが期待できるということです。(※1)
新型コロナウイルス感染症と花粉症
新型コロナウイルスの感染対策でマスクを着けることは、もちろん花粉症の症状を和らげます(※5)。また、テレワークで家の中で過ごすことが増えるなら、症状の緩和の一助になるでしょう。
逆に注意しなければならない点として、新型コロナウイルスの症状と花粉症の症状が重なっている場合に、新型コロナウイルス感染が分かりにくくなる可能性があることです。たとえば、鼻水や鼻づまりなどは花粉症でも見られます。これらの症状で新型コロナウイルスが心配な場合はかかりつけ医などに相談することになりますが、判断が難しいケースも出てくると思われます。飛散前から花粉症の治療を行って症状を抑えることは、この「新型コロナウイルス感染症と勘違いしない」ためにもよいかもしれません。
また、かゆみなどのために目や鼻を触ることも感染のリスクを上げてしまいます。
さらに、花粉症がひどいときに新型コロナウイルスに感染してしまうと、くしゃみなどによってまた感染を広げるかもしれないという心配もしなければなりません。
これらの意味でもコロナ禍の中では、花粉症についてもしっかりとした治療をする方が良いとも考えられます。
花粉症の方が非常に困るのが「換気」だと思います。新型コロナウイルスの感染対策としては、換気は非常に重要です。花粉症対策としては窓をあまり開けないほうがよいのですが、新型コロナウイルス感染症対策としては窓を開けざるを得ないということです。こればかりは致し方ないので、その意味でも他の花粉症対策をしっかりしておくことが大事かと思います。
最後に
ガイドラインに沿った説明をしましたが、ガイドラインはあくまで「目安」であり、個々の患者さんによって対応は異なります。快適な花粉症シーズンを送れるように、早めに治療を始めましょう。例年お困りの方はぜひ、お近くの耳鼻咽喉科クリニックでご相談ください。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】
<参考文献>
※1 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会、鼻アレルギー診療ガイドライン 2020年版 [改訂第9版]
※2 角谷千恵子, 他. スギ花粉症におけるアウトカム研究(第4報) : 就労者におけるスギ花粉症の労働生産性に対する影響. アレルギー(2005)54 巻 7 号 p. 627-635
※3 太田伸男, 他. スギ花粉症に対する薬物療法の実態 インターネットによる医師調査. Prog Med 2012; 32: 125-133
※4 宮之原郁代. アレルギー性鼻炎治療における鼻噴霧用ステロイド薬の新たな位置づけ. 日耳鼻(2020) 123:30-35.
※5 Amiel A Dror et al. Reduction of allergic rhinitis symptoms with face mask usage during the COVID-19 pandemic. J Allergy Clin Immunol Pract. Nov-Dec 2020;8(10):3590-3593.
参考文献
参考:(2021/02/07 Yahoo!ニュース掲載)
https://news.yahoo.co.jp/byline/maedayohei/20210208-00221324/