株式会社 シーメイダ

日本人は森がお嫌い? 森林公園を訪れて気づいた人々の集う場所

森林公園でも、人が好むのは芝生の広場ばかり。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

私は、多少とも時間ができると、近隣の森を歩くようにしている。幸い、車で数分で行ける距離にいくつもの森林公園やハイキング道のある野山、そして鎮守の森がある。森を歩いていると、気分はスッキリするし、考えごとをするなど仕事上も何かとプラスが多い。ただ、このところ森の様子が違ってきた。

 人影が増えたのだ。
 通常なら平日の森にはほとんど人影がなく、出会うのはせいぜい私とよく似た?ヒマそうな中高年のハイカーくらいなのだが、最近は家族連れやカップルも目立つ。とくに小さな子供連れが多い。

 おそらく新型コロナ肺炎の蔓延のおかげで、遊戯施設はおろか図書館や美術館、博物館、そしてさまざまなイベントも、みんな閉じてしまったから、行き場に困って選んだのが、森林公園や野山のハイキングなのだろう。
 1日中自宅に籠もりっぱなしでは精神衛生上悪い。安全で開いているところを探したら、森林公園や野山がわずかな選択肢に残る。ちょうど暖かくなったし、野外で風に吹かれ紫外線を浴びたら、コロナウイルスも退散するだろう。という発想か。

森林公園を訪れる人は増えたが

それはよいことなのだが……なぜか、みんな芝生の広場に集まっている。そこで並んで弁当を広げている。遊ぶのも芝生の上。
 なかなか楽しそうではあるし、それが悪いというつもりは毛頭ない。広々とした芝生も心地よい。だが……ここは、森林公園なのだ。森の中の遊歩道が幾コースも伸びている。だが、なぜかそこには人影がほとんどないのである。歩くのもメインの広い遊歩道だけのよう。

 私など、山道を歩いていても、他人と出会いそうになると横道に逸れてしまうクセがある。森の中では人の姿を目にしたくない気分なのだ。せっかく樹木など自然に包まれる気分を味わっているのに、興ざめしてしまうから。もしかしたら私の方が特殊なのかもしれないが、それにしても森林公園なんだから、訪れたのなら森そのものも楽しめばいいのに、と思ってしまう。

 どうやら日本人は、森歩きが苦手なようだ。森林公園に来ても、なるべく樹木の少ない、広々とした見通しのよい芝生の広場、あればビジターセンターや展示館などに集まっている光景をよく目にする。
 そして森林公園の管理側も、近年は森の中のコースを縮小しているように感じる。以前は通れた脇道が次々ととうせんぼされているのだ。人が歩かないと、道はすぐに草に覆われて荒れがちになるし、管理費が減少傾向にあるから、あまり多くの道を維持できなくなっているのかもしれない。

アンケートでも森好きは欧米と差

 欧米には、多くの森林リゾートがある。森の中にホテルだけでなく、周辺の森を歩いて楽しむ観光地であり保養地だ。なかには滞在中にどれだけ歩いたか記録して、距離によって表彰し自慢し合う?システムもあるようだ。

 だが日本の場合、海浜リゾートは目立つが森林リゾートはイマイチ。山の場合は高原リゾートか、あるいは登山基地になるようだ。登山は流行っているが、これは山頂など目的地をめざしてせっせと登る人が多く、ゆったり林内を周遊する歩き方はあまりしない。どうも森の中を歩くことを楽しむ文化が弱い気がする。

 欧米と日本で「好きな場所」を調べたアンケート結果では、ドイツなどはダントツで森林地帯なのに対して、日本では森は下位になる。観光目的だけでなく、日常生活でも、森と触れ合う機会は日本人には少ないようだ。それどころか、森は何か猛獣が出てきそうとか、毒蛇、毒虫がいるから恐い、という否定的イメージを持つ人が多いらしい。
 もしかしたら、日本の森は山にあって湿潤な照葉樹林や針葉樹の人工林が多いのに対して、ヨーロッパの森は平地の落葉樹林が多いからなのかも……と思ったが、私のわずかな経験では、森の中を歩く感覚はさして変わらなかったように思う。欧米も結構山がちだし、針葉樹林も多い。
 結局は、慣れの問題なのかもしれない。日本人は都市生活を送っていると、森に触れ合う機会はほとんどなく、木陰に包まれる経験もしていない。そこに土に汚れるのがイヤ、虫に刺されるのがイヤ、という感覚が重なってしまうと森を忌避するのだろうか。

フィトンチッド吸って免疫力アップを
 しかし、コロナウイルスを怖がるのなら、野外に出ても人と密集する環境に滞在するよりは、ゆっくり少人数で林内の遊歩道を歩く方が効果的と思う。軽い運動を行う方がストレス解消になるし、森を歩くと免疫細胞が活性化するという報告例もある。木々の出す揮発性物質フィトンチッドを吸い込んで癒されたら免疫力も高まるのではないか?(ちなみにフィトンチッドの日本語訳は“殺菌素”である。ウイルスには効かないけど。)

 ほかに行くところがないから、という後ろ向きの理由であっても、せっかく足を運んだ森林公園だ。もう一足、森の奥に踏み込んで親しむことを望みたい。

 

田中淳夫
森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、そして自然界と科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然だけではなく、人だけでもない、両者の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)など多数。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』あり。最新刊は『獣害列島』(イースト新書)。

参考:(2020/3/20Yahoo!ニュース掲載)https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaatsuo/20200320-00168502
田中淳夫
https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaatsuo/20200320-00168502

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