食べ物が、私たちのメンタルヘルスに与える影響とは?
身体に悪いものを食べれば、心もそれを味わうことになる。フランスで出版された最新著作で、うつと食べ物の関係について詳細に分析し、心理栄養学をアップデートしたギヨーム・フォン医師にインタビュー。
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――マダム・フィガロ:2015年に当時医学生だったジュリア・エンダースの著書『Le Charme discrete de l’intestin(腸の密かな魅力)』がセンセーションを巻き起こしました。研究者で精神科医のあなたも、メンタルヘルスが食べ物に影響されると主張していらっしゃいますね。
ギヨーム・フォン:食べ物が心の健康に与える影響についての研究を振り返ると、精神医学の分野では最も古いものでも2010年。非常に新しい研究領域です。精神科の治療において、生活様式の影響(食べ物だけでなく、運動、依存症、日常的な人間関係なども含む)は長い間見過ごされてきました。しかし不調の原因を叩かなければ、薬を処方しても意味がありません。糖尿病や高血圧、がんにも同じことが言えます。
しかし、2017年のうつ病に関する高等保険機構による診療の手引きでは、患者の生活様式についてはたった1行しか記述がなく、特に食べ物の問題が取り上げられているわけではありません。うつ病治療のガイドラインでも食べ物に関する記述はなく、基本的に抗うつ薬に関することしか触れていないのです。
――著書の冒頭でも、同僚の医師たちの懐疑的な反応を語っていますね。しかし心理栄養学の効能に関しては多くのデータがある……
懐疑主義はあらゆる科学的発見につきものです。たとえば2000年代に治療の一手段として瞑想の話をすると笑われたものです! ですが、2003年にダライ・ラマが参加してアメリカの2人の研究者が実施した研究によって、実際に効果があることが脳画像で確認されました。その後、うつ病の予防に有益であることを示す科学的証拠は次々と発表されています。いまでは大部分の医療機関で瞑想プログラムが提供されています。しかし現在のところ、心理栄養学はまだあまり知られていません。
――食べ物とメンタルヘルスの繋がりとはどういう性質のものでしょうか?
微生物叢は腸内に生息する1,5kgもの細菌の群です。これらの細菌は、食物の消化や栄養素の吸収を助け、病原体の攻撃から私たちを守る働きをし、身体のほかの器官と絶えず相互作用しています。糖質や脂肪を多く含むファーストフードのような身体に悪いものは、ダイレクトな影響を及ぼします。主なものは、炎症と免疫力の低下。糖質は炎症性物質を放出する内臓脂肪の蓄積(アメリカ人はこれをシュガー・ベリーと呼んでいる)を促進します。この物質は、たとえば男性の場合は勃起など、身体の多くの機能を混乱させます。髄膜の透過性が高まり、その結果、免疫機能が撹乱されます。精神障害がある人は、ない人に比べて脳に炎症が見られる確率が高いことが明らかにされています。さらに多くの場合、糖質と脂肪の多い食品には必須栄養素が不足しています。葉酸もそのひとつ。ドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンのような気分を調節する神経伝達物質の合成に欠かせません。
――腸が私たちの第二の脳と言われるのはなぜですか?
これはむしろメディア的な表現です。迷走神経(脳から腹部に達する神経)に接続されていなくても、腸は自律的に機能し続けています。いずれにせよ確かなのは、腸内で起きていることは私たちの脳に影響するということです。
ご存知のように、新型コロナウイルスへの感染によって、不安やうつ病を含むあらゆる精神疾患の有病率が上昇しました。学生をはじめ、貧困化した人もあり、質の悪い食生活や、野菜の摂取量が少ない傾向があります。このことは彼らの腸内細菌叢や心の健康に間違いなく影響を及ぼしています。
パンデミック以後のフランスにおけるうつ病の有病率を調査した疫学的研究はいまのところありませんが、「Alimental調査」(注:2021年末に開始)が、私たちの食生活とうつ病との関連について何らかの回答をもたらしてくれるはずです。しかし私が見る限り、最も大きなストレス源は、地球環境の危機的状況に関連した気候不安症です。気候不安症は無力感や消極的な感情を生み出します。その結果、弱者の中に、不安障害やうつ病の悪化を引き起こします。
――では不調を感じたとき、摂取する食べ物とどのような関係を築くべきなのでしょうか?
ストレスに晒されると、私たちは「感情的な食事」と呼ばれるもの、とくに糖質に向かいがちです。遺伝的要因(糖応答性には個人差がある)のせいで、あるいは早期に糖質に触れた経験がある人(おばあちゃんからよくおやつにビスケットもらっていたなど)ほど甘いものに向かう。こうした食行動も時折なら無害ですが、長期的な習慣となると、体重増加や腸の炎症といった影響が出て、うつ病や不安障害を引き起こすことになります。そうなると悪循環です。
――断食が私たちのメンタルに与える効果についてはいかがですか?
私たちは最近行ったメタ分析で、断食を習慣的に行っていた人には、通常の食生活を継続していた人たちに比べて不安やうつ病の改善が見られることを明らかにしました。結果は断食の期間や種類によってかなりばらつきがありましたし、データは予備的なものではありますが、期待が持てます。断食は不安やうつ病の症状が見られる過体重の人に対して特に有益に働く可能性があると考えられています。こうした食事制限は大人を対象としたもので、思春期の子どもたちは摂食障害を引き起こす可能性があるのですすめられません。
――加工食品によるダメージを受けていない私たちの先祖は、いまよりメンタルヘルスは良好だったのでしょうか?
私たちの祖父母の世代は今よりもタバコやアルコール、幼児期の虐待などの問題に頻繁に晒されていました。冷蔵庫が登場する前は食品に塩が多く使われており、胃がんになる可能性も高かった。ですからすべてがバラ色だったというわけではありません! しかし、その時代の人たちは超加工食品(注:糖尿病、心血管疾患、ある種の癌の急激な増加に関連している)とは無縁でした。加工されていないローカル産の農産物は栄養素がより豊富で、輸送距離が短いほど農産物の栄養価の低下も抑えられています。
――伝統的な医学的治療法に加えて、サプリメントのような身近にある効果的な治療手段が、無条件に提供されていないことを嘆いていらっしゃいますね。何がブレーキなのでしょうか?
私の考えでは、有効性が明らかで、副作用の心配もないのですから、抗うつ薬を処方するときは必ずオメガ3のサプリメントも処方するべきです。問題はサプリメントはフランスでは公的医療保険の払い戻しが受けられないこと。アミノ酸は2016年まで還付の対象となっていました。ですがいまはその限りではありません。強力な抗酸化物質であるアミノ酸は、患者の活力や気力を高め、精神障害、特にうつ病や統合失調症の改善に有効なのです。残念なことです。
――食べ物がメンタルヘルスにおいて忘れられた存在とならないために、これからどのように取り組んでいくべきでしょうか?
世論や患者や医療従事者の意識は今後、心理栄養学に向かうことが期待できます。言葉の解放、スティグマの解消、研究の進展と、私たちは急速に進歩しています。やるべきことはまだ多く残ってはいますが。精神科医になって以来、真の意味での医療行為の革命に立ち会えたことを非常にうれしく思います。自閉症や子どもの多動症のケースでは、オメガ3がある種の症状を軽減することがわかっています。アミノ酸は統合失調症やうつ病に効果的で、プロバイオティクスはうつ病に有効です。心理セラピーは集中力と時間を必要とします。多くの場合、精神的混乱の根を叩くために、心理セラピーが不可欠だとはいえ、サプリメントはそもそも服用が簡単です。
――個別のアプローチとは別に、より大きな規模で何かが起きています。私たちの細菌叢は長期変化の途上にあるのでしょうか?
先ほど述べたように、炎症を引き起こす食べ物(糖分、飽和脂肪)は私たちの腸内に生息するバクテリアの類型に影響を及ぼします。普段と違う食事法を2週間も続ければ、この変化が目に見える形で現れます。現在提出されている仮説のなかに、私たちの腸内細菌叢が、地球環境の生物多様性と同じように、多様性を失いつつあるという説があります。食品に使用される抗生物質や加工食品のせいで脆弱化し、低下しているのです。うつ病にかかりやすくなっているのはこのせいかもしれません。
――いまは転換点にあると?
一方で、私たちに食物を供給する環境の破壊を続けながら、身体あれ精神であれ、健康を改善できると考えるのは賢明ではありません。腸内細菌叢は私たちの体内環境です。その質の劣化は体外環境の劣化を反映しています。うれしいことに、心の健康に有効な食生活を心がけることは地球環境の保全にも有効です。肉を減らし、超加工食品をやめ、果物や野菜の地産地消を促進することは、私たちの腸内細菌叢にとっても、地球環境にとっても、有益なことです。
食べ物が、私たちのメンタルヘルスに与える影響とは?
https://news.yahoo.co.jp/articles/cf4f4aa49128dfd4dfa5dbfd28c032c76869960e